水谷章三さん インタビュー Part 2
民話の面白さを引き出す
水谷さんの書く絵本や紙芝居には、民話をベースとした作品が数多くあります。これは、松谷みよ子さんの誘いで、民話が伝わる土地に出向いて、その土地の方に、その土地の言葉で民話を伺う“民話採訪”を続けてきたことと、深い繋がりがあるそうです。 例えば水谷さんの『ももたろう』。一般的に知られている品行方正な桃太郎は出てきません。そこにいるのはぐうたらで、動物たちにきびだんごを半分しかあげない、何とも庶民派な桃太郎です。

それはどうしてか・・・地域によって伝わり方の異なる桃太郎を聞いているうちに、自然と自分の“ももたろう”像が出来上がり、いつしか水谷さんなりの言葉で語る物語になっていたのだそうです。
「同じ話なのに、地域によって伝わり方が微妙に違う。『うりこひめとあまのじゃく』みたいに、西と東で全く違う話もあります。時代や語る人によって変化していくのが、口承文芸としての民話の面白いところなんですね。」
『ももたろう』作/水谷章三 絵/スズキコージ にっけん教育出版社

民話は庶民の娯楽
スペインの民話を題材とした『かたあしのひよこ』は、ひよこのかわいらしさと、出てくるものを次々と飲み込んでしまうという骨太な行動とのギャップが激しい異色作です。心に決めたことは最後までやり抜く芯の強さと、最後は王様を懲らしめるという下剋上的な発想は、スペイン内戦の影響を色濃く映し出しているのだとか。

『かたあしのひよこ』文/水谷章三
絵/いとうひろし
ほるぷ出版
「民話は、言ってみれば庶民の娯楽みたいなもの。えらそうな奴を懲らしめる空想に花を咲かせて、楽しんでいたんじゃないかな。だからこそ、少しずつ形を変えながらも語り継がれているんでしょう。」
声が生み出すリズム
それからもう一つ、水谷さんの絵本や紙芝居を読んで感じることが、独特なリズムのある言葉遣いの面白さ。和尚と小僧の軽妙なとんち話を集めた『ふうふうぽんぽんぽん』には、声に出してみると思わず拍子を付けたくなるような、京都弁によるリズミカルな言い回しが随所に出てきます。不思議ですが、目で読むだけではなかなか気付けないのです。
「絵本にしても紙芝居にしても、基本的には読んで聞かせるもの。声に出して面白くなかったら意味がないんです。ちょっとしたリズムや抑揚があるだけで、読む人にとっても子どもにとっても面白い言葉になるんですね。」
『ふうふうぽんぽんぽん』文/水谷章三 絵/杉浦範茂 童心社

肉声で聞かせることに意味がある
だからこそ、お母さんにはぜひ“肉声”で、子どもに読み聞かせをして欲しいと水谷さんは言います。上手に読むことができない、歌が出てきてもどのようなリズムや音階で歌えばいいのか分からない、という理由で絵本や紙芝居を敬遠する親御さんも多く、劇団員の中にも、話し方や歌い方を教わろうとする方もいるそうです。
「実際に声に出してみて、自分で楽しいと思えればいいんです。そうしていれば、子どもが喜ぶリズムも自然と見つかります。まずは自分が楽しまなきゃ。上手い下手なんて関係ないですよ。」

それから、絵本や紙芝居とは切っても切れないと思われる“教訓”。ここにも、作家としての水谷さんのこだわりが隠されています。
「一番大切なのは楽しむこと。もともと娯楽ですから、教訓なんて二の次でいい。だから、残酷な場面があるとか、差別につながらないかとか、そんな心配も無用です。そういった大人の才覚の方が、子どもにとってはよほど悪影響ですよ。」
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